人工肉とは? 健康に害はない? なぜわざわざ人の手でお肉を作るの?
目次
人工肉って何?
人工肉は本物の動物の肉ではない、植物由来の素材や科学的な方法で作り出されたお肉風の食品の総称です。
代替肉という呼び方をすることもありますし、細胞の培養によって作られた人工肉は培養肉と呼ばれることもあります。
人工肉の研究・開発は特にアメリカで盛んで、すでにアメリカのマクドナルドやバーガーキングなどのハンバーガーチェーンでは人工肉を使ったハンバーガーが当たり前に販売されています。
ここでは植物由来の人工肉と、細胞の培養による培養肉の2つに分けて説明していきます。
・植物由来の人工肉
人工肉の原料となるのはエンドウ豆などのたんぱく質を多く含む植物です。
アメリカのバーガーキングが採用している人工肉は「インポッシブル・フーズ」という会社が、マクドナルドが採用している人工肉は「ビヨンド・ミート」という会社が提供しています。
インポッシブル・フーズの人工肉の風味を本物のお肉に近づける鍵となっているのは、レグヘモグロビンという成分です。
レグヘモグロビンは大豆などのマメ科植物の根粒にある色素タンパク質で、肉汁のような赤い色素とタンパク質からなっています。
このレグヘモグロビンはお肉に多く含まれるミオグロビンやヘモグロビンと構造がよく似ていて、それゆえお肉のような風味を実現できるのです。
一方のビヨンド・ミートは、着色したり肉汁を再現したりするのにビートという植物に由来する成分を利用しているということです。
・培養肉
培養肉はまだ本格的な実用段階には入っていません。
iPS細胞のような再生医療の発展によって、細胞を人工培養して作り出す技術が進歩しています。
そういった技術を活用して、すでにあるお肉の細胞から新しいお肉を作り出すのが培養肉です。
そのような高度な技術を用いる食品なので、まだ安価に製造できるようにはなっていません。しかし今後普通のお肉と同じくらいまでに値段が下がるとも言われています。
また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が宇宙での食料問題に取り組むためのプロジェクト、「Space Food X」でも培養肉は重要なテーマとなっています。
健康に害はないの?
人工肉に対しては、
「人工」
という言葉のイメージから体によくないものであるとのイメージを持つ人もいるでしょうし、逆に、エンドウ豆などの植物由来の素材で作られるのだからむしろ普通の肉より健康的なのではないか、と考える人もいるかもしれません。
人工肉にも様々に種類があるので健康に及ぼす影響という意味では、一概に問題がある、ない、と言うことはできません。
例えば、上でご紹介したインポッシブル・フーズの人工肉のレグヘモグロビンの生産には遺伝子組み換え酵母が使われます。
しかしながら、アメリカの食品の安全を認定する機関によって、レグヘモグロビンはGRAS物質(一般的に安全であると認められる物質)として認められています。
また、植物由来の人工肉についても、必ずしも普通の肉よりも健康的とは限りません。
インポッシブル・フーズやビヨンド・ミートの人工肉は普通のお肉と変わらないカロリーを含んでいて、ナトリウムに関してはむしろ普通のお肉よりも多いという指摘もあります。
つまり、今のところ普通のお肉とくらべて
明らかな健康への害はないものの、植物由来の食品であっても健康食品になるとは限らない
ということが言えます。
もちろんすべての人工肉が身体に悪い材料を使っているわけではなく、低カロリーを売りにした健康志向の代替肉食品も存在しています。
なぜ人工肉が必要なの?
こうして説明してみると、特に健康に資するわけでもないのにわざわざ苦労して人工肉を作ろうとするのか疑問に思われるかたもいらっしゃるでしょう。
その答えは私たち個人の食卓ではなく、
世界規模の課題
の中にあります。
その課題とは、地球温暖化です。
実は私たちが普段何気なく食べている
お肉が作られるまでには、大量の温室効果ガスが排出されています。
例えばアメリカ全体の温室効果ガスの約4%は畜産業によって排出されていると言われています。
牛の飼育そのものやお肉の輸送にかかるエネルギーはもちろん、牛自身も温室効果ガスであるメタンを排出します。
私たちが思っている以上に、畜産業は環境に負担をかけているのです。
そこで、動物よりもずっと管理が楽な植物や、動物を育てる必要のない細胞培養などによって作られる人工肉の存在が重要になってくるのです。
また、少子化に悩む日本にとっては実感のないことですが、世界的には人口が増え続けています。
このままでは
やがて食料難に陥る
のではないか、という心配もされており、その対策として昆虫食なども脚光を浴びています。
つまり、人工肉の生産技術が発展しより効率的に食料を生産できるようになることは、そのような食料危機への対策にもなるということなのです。
まだ私たちの生活では身近になっていない人工肉ですが、事前にその性質と意義を知っておけば、国内で本格的に流通されるようになったときに困惑せずに済むかもしれませんね。